大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)602号 判決 1953年4月28日

上告人

(被告・控訴人) 新潟県知事

被上告人

(原告・被控訴人) 飯沼正三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとは認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告代理人松本明の上告理由

第一、原判決は、第一審判決通りの事実認定を為したる上、

「控訴人は、若し被控訴人が昭和十一年六月五日、本件家屋の所有権を取得していたとすれば、当時施行の新潟県賦課規則施行細則により、右不動産取得の屈出をしていなければならず、同法により賦課せられていた雑種税を納入していなければならなかつたのに、この事実がない以上、右事実は存在しなかつたものであると主張するが、仮に控訴人の主張通りとするも、法の要求する届出が励行されることは元より望ましいことではあるが、間々届出が怠られる事例はない理ではないから、この一事によつは未だ前記認定を抹殺することは許されないと考える」と判示している。

然し、控訴人は「若し、被控訴人が昭和十一年六月五日本件家屋の所有権を取得していたとすれば、当時施行の新潟県賦課規則施行細則により、右不動産取得の届出をしていなければならず、同法により賦課せられていた雑種税を納入していなければならなかつたのに、この事実がなく」而も、「他に、控訴人に於て課税要件完成の事実を知る何等の手段、方法もなかつた場合に於ては、事後に於て賦課徴収者が課税要件の完成したと認めた当時施行の法令に基き賦課処分をなすことは、決して違法ではない」と主張して居るのであつて、決して「雑種税を納入していなければならなかつたのに、この事実がない以上、右(贈与)事実は存在しなかつたものであると主張」などはしていないのである。

即ち、控訴人は「届出のなかつた事実」と「登記」とに依つて、登記の時に課税要件完成したりと認定し、登記当時施行の法令に基き賦課処分をなすことは、違法でないと主張しているのであつて、届出の有無に依つて贈与の有無を主張しておるのではない。而して、その処分が違法でないとなす理由は、「先に(雑種税を)賦課しなかつたことは、申告者(である被控訴人)の義務違反に基くものであつて、徴収者(である控訴人)に何等の過失もなかつたものであり、又事後に法令に基き賦課処分をなすことを得ないとすれば、総ての納税義務者は一方に於て申告を怠り乍ら、他方に於て虚偽の課税原因を作為して、賦課を免れるものが続出するに至り、遂に本件の如き常に法令の改廃を免れず、又短期の時効に係る随時税は、悪質なる納税義務者に対しては賦課徴収し得なくなり、税制を混乱に陥れる虞があるから」である。

然るに、控訴審判決は右控訴人の主張を曲解し、控訴人が飽く迄も贈与の事実のなかつたことを主張しておるが如く判断して、控訴人の本件処分が違法にあらざることの主張を排斥したのは不当である。

第二、而も、原判決は「法の要求する届出が、励行されることは元より望ましいことではあるが、間々届出が怠られる事例はない理ではないから、この一事に依つては未だ前記認定を抹殺することは許されない」と判示して居るが、之は驚くべき謬見であると言わざるを得ない。法が届出を要求しているのは、申告義務を要請しているのである。この義務は、必ず守られることは要するものであつて、判示の如く「励行される」ことが「望ましい」程度のものでは決してない。

而も、原判決は「間々届出が怠られる事例はない理でないから」と判示して、申告義務懈怠を是認して居ることは、法治国の裁判所として決して採るき態度ではないと確信する。

即ち、原判決は法の不遵守を是認して居るものであつて、この点からも原判決は到底破毀を免れないものである。 以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例